1 地域医療を守るために、2024年度診療報酬改定の再検討を求める意見書を国に提出することを求める陳情
令和6年6月5日
【陳情の趣旨】
地域医療を守るために全ての医療従事者の処遇が改善され、安定的に人材確保が可能となる方向に改定されるよう、国に対して2024年度診療報酬改定の再検討を要求してください。
【陳情の理由】
はじめに、2024年度診療報酬改定については、以下の問題点を抱える改定であります。
1.地域医療を支える中小規模の医療機関が大幅減収で経営困難に陥ることにより地域医療の崩壊を招く
2.事業所・職種間で不公平と分断を生むベースアップ評価料は安定した医療提供体制の確保に影響
3.慢性疾患管理の3疾患除外は、長期処方や医療DXの推進により患者の受診抑制が進み健康管理が後退
4.マイナ保険証の活用を目的とした医療DXの推進は、保険証の廃止だけでなく患者情報の管理にも問題
診療報酬は国民皆保険の下で、国民が受け得る医療の質と量、方法を保障するものです。医療機関の経営と診療機能の維持を保障するものであることはもちろん、そのことを通じて国民に対する良質な医療を提供する原資になります。国民皆保険制度は、社会保障の一環として、憲法25条に基づくものであり、国民皆保険制度の運営主体である国は、時々の情勢に応じて、保険医療機関の経営を安定させ、国民への医療提供体制を保障する責任があります。国は、長年の低医療費政策の下、コロナ禍や物価高騰で疲弊した医療提供を立て直すために、診療報酬を大幅に引き上げるべきです。
第24回医療経済実態調査からも、医科診療所(医療法人)の医業利益率(コロナ補助金含まず)について、未曽有のコロナ感染拡大の中、診療所が、休日夜間返上などで地域医療に奮闘しても、コロナ直前の経営水準(2019年度:6.5%)とほぼ変わっていないのが現状です。また、コロナ受入に奮闘した特に民間病院の医業利益率も、コロナ補助金を除くとたちまち大幅な赤宇(2022年度:−1.3%)に転換しています。これは、2023年度打ち切られたコロナ補助金規模の診療報酬改定の引き上げが無いと経営を維持できない異常な事態です。
また、医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の月給与平均は32.7万円と全産業平均36.1万円を10%近く下回っています。賃上げに関する診療報酬改定は、事業所ごと、同じ職種間で賃上げ額が変わり、賃上げ対象外の職種もいることから職員間の分断をうむだけでなく職員確保と医療提供体制の維持に影響が出ることは明らかです。
そのような中、改定率の内訳は、看護職員・病院薬剤師などの従事者の賃上げで0.61%、入院の食事療養費0.06%、その他で0.46%(医科0.52%、歯科0.57%、調剤0.16%)の引き上げとなるが、生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化で0.25%の引き下げが盛り込まれ、診療報酬本体の改定率はプラス0.88%(国費ベースで約800億円)となりました。しかし、賃上げの引き上げ分は、人件費で全て使用するため、本体改定率は実質マイナスとなります。更に、薬価と材料で1.OO%(薬価0.97%、材料価格0.02%)が引き下げられ、トータルでは6回連続の大幅なマイナス改定です。
また、重点項目としては以下のとおりです。
1.入院
重症度、医療・看護必要度は急性期の患者にどの程度の看護を提供しているかを評価するための指標である。つまり、この病院ではどれだけの看護師を必要としているのかを評価する指標である。今回の改定では、看護体制が手厚い急性期病棟の指標から看護が行うケアの評価が削除された。また、その他の項目でも高齢者に多い内科系疾患では評価が低くなり、低い報酬になるよう変更されている。経営的な側面を重視すると、高齢者が急性期病棟から追い出されることになりかねない。高齢者救急の受け皿として国が想定している病棟では一般患者の救急よりも手薄な看護体制となり、容態が急変しやすく、重症化リスクも高く、より手厚い看護ケアが必要な高齢者救急を軽視している。
2.内科指導料(外来)
今改定では、高血圧・高脂血症・糖尿病の3疾患が、新設の指導料(生活習慣病管理料U)に移行する。3疾患は内科患者の7割以上を占めると予想され、算定しなければ10〜20%の減収になるため対応せざるを得ないが、算定要件として患者ごとの計画書交付が求められ、医師中心に膨大な実務が発生する。また、待ち時間の増加や計画書への署名を求めることで、長年培ってきた患者との信頼関係を妨げることが懸念される。
3.リフィル処方箋・長期処方(外来・在宅)
コロナ禍で、電話による処方箋発行や健康診断の未受診などが長期化した結果、病状悪化やがん発症が増加した。定期通院による慢性疾患管理、中断患者把握は重要だが、リフィル処方箋、長期処方の推奨は、患者を受診機会から遠ざけ、病状悪化を引き起こし医療の質の低下、引いては医療費の増大を招くことにつながる。
4.マイナ保険証・医療DX(入院・外来・在宅共通)
当グループのマイナ保険証利用率は3%程度だが、収益を確保するためにはマイナ保険証を推進する体制を整備したり、国に患者情報をデータで提出することで加算を取らざるを得ない内容となっている。データ提出の実務は複雑・膨大であり、また、本来医療機関と患者のものである診療情報を国に提出せざるを得ず、守秘義務の形骸化にもつながる。高齢者や障がい者等「デジタル弱者」の医療そのものへのアクセスの妨げになる恐れがある。
5.医療DX導入の問題点
様々な利便性が向上すると謳われているが、一方で情報漏洩やハッキングリスク等のセキュリティの問題やビックデータとして患者の情報を国が把握することで、個人情報・プライバシーの侵害になり得ること、また高齢者や障がい者などのデジタル化が不慣れな方々へのデジタル格差が懸念される。更にデジタルツールを導入するため、システムのトラブルやアップグレード、メンテナンス等の作業や費用が発生し、医療機関の経営を圧迫することが予想される。
公的医療機関がない足立区で地域医療を支えている民間の中小医療機関が経営困難に陥れば、地域医療は崩壊します。地域医療を守るために、国に対して2024年度診療報酬改定の再検討を要求してください。