4 地盤変状の発生区域における地区計画運用と安全な土地利用判断の整理を求める陳情
令和8年3月16日
【陳情の趣旨】
足立区は大部分が海抜2m前後の沖積低地の軟弱地盤であり、公共工事および不動産開発事業等の工事に伴う地盤変状が生じる可能性が高い特性を有しています。しかし、現状において、足立区が制定する各地区の地区計画は、地盤変状の発生を制度上想定していません。地盤変状の発生に際し、区がどのような資料や関係主体との協議を前提として、工事の継続や新たな開発について判断を行うのかは、地区計画の運用上、整理が必要な事項です。よって、地盤変状が発生した区域における地区計画の運用及び土地利用判断のあり方について、検討及び整理を求めます。
【陳情の理由】
陳情者が在住する小台一丁目地区は、荒川低地の軟弱地盤に位置し、歴史的にも地盤沈下が発生してきた地域として知られています。当該地区では、国による荒川右岸高規格堤防整備事業、民間事業者による建築計画、及び東京都による隅田川スーパー堤防築堤工事がそれぞれ進行しています。こうしたなか、当該地区において、下記のように地盤変状が確認され、その影響が懸念されています。
(1)高規格堤防上に位置する分譲マンション「グランマークスツインフォート」(小台一丁目16-11及び12)とHonda Cars東京中央足立小台店(小台一丁目16-1)の西側擁壁(高さ5.35m、長さ105m、厚み0.4m)の最大6.2cmの傾斜(別紙1)
(2)グランマークスツインフォートの地盤変状及び建物と立体駐車場のクラック(別紙2)
(3)Honda Cars東京中央足立小台店の工場の沈下と店舗の柱の沈下
(4)隅田川沿いの歩道(都所有)の沈下(別紙3、隅田川スーパー堤防築堤工事施工対象地)
小台一丁目では、「東京都市計画地区計画小台一丁目地区地区計画」(令和6年7月16日、足立区決定・変更)が制定されています。水害被害防止のための高規格堤防整備を前提に、準工業地域と工業地域開発を組み合わせた本地区計画では、「工場跡地等の土地利用転換にあわせ、適切な土地利用を誘導するとともに、スーパー堤防の整備や避難協定の締結を進めることにより、『安全で水と緑豊かな、住商工の調和する良好な複合市街地』の形成を図ることを地区計画の目標とする」とされ、建物の用途や床面積などの土地利用が定められています。
しかし、本地区計画は、地盤変状を想定していません。軟弱地盤上の高規格堤防で地盤変状が生じた場合に土地利用判断をどのように取り扱うかについては、制度上整理がなされていない状況です。さらに、首都圏では将来的に大規模地震の発生が高い確率で予想されています。すでに地盤変状が発生している状況を踏まえると、区が住民の住環境の安全性を確保するうえで取り得る対応には、制度上の制約が生じていると考えられます。
また、小台一丁目地区地区計画は、堤防整備など大規模な盛土を伴う公共事業と、準工業地域における民間開発が継続して進行する都市計画となっています。このような区域では、公共事業による地盤条件の変化と民間開発の進行が相互に影響し得ます。以上より、区がどのような資料や関係主体との協議を前提として土地利用に関する判断を行うのかについて、行政としての判断の考え方及び手続を整理することが必要であると考えます。
【陳情項目】
1.地盤変状が発生している区域における土地利用判断の手続の整理
地区計画の運用に当たり、地盤変状が確認されている区域において、行政がどのような資料や基準に基づき、工事の継続や新たな土地開発について判断を行うのかについて、その考え方及び手続を整理することを求めます。
第一に、中期的な地盤挙動の把握に基づく行政判断を求めます。擁壁の変位及び地盤変状は、令和元年(2019年)5月以降に小台一丁目15-2他(地番)で開始された国土交通省による高規格堤防工事の後に確認されました。その原因としては、圧密挙動のみならず、ペーパードレーン工法、地下構造物の撤去・改変、地下水環境の変動等を含む複合的な要因が関係している可能性があります。
軟弱地盤上の堤防盛土に関する研究では、隣接地における沈下が300日以上継続する事例が確認されており、少なくとも1年程度、地盤挙動を継続的に観測する必要性が示されています(別紙4:332頁)。また、軟弱地盤上の高規格堤防の施工に関する実務研究では、圧密沈下が5年以上継続する事例が多いことが報告されています(別紙5:80頁)。このような知見を踏まえると、地盤挙動の収束を確認するためには、中期的なモニタリング結果を踏まえて判断する仕組みを整理することが必要です。
第二に、安全性確認のための資料に基づく行政判断を求めます。建築基準法は建築物の安全性の確保を目的としており、その判断に当たって敷地の地盤条件を含めた安全上の必要な措置を講じることが重要とされています。その安全性は周辺の安全とも密接に関係することから、地盤条件が変化している区域においては、慎重な判断が求められると考えます。また、盛土を伴う事業については、宅地造成及び特定盛土等規制法においても、災害防止の観点から周辺への影響を踏まえた安全確保が重要とされています。
以上より、地盤条件が変化している可能性がある区域においては、地盤挙動に関する調査によって得られた資料を踏まえ、安全性の確認を前提として土地利用判断が行われることが重要です。
2.関係主体との調整・協議、及び情報共有
地盤変状が発生した場合、地区計画の運用の透明性及び説明責任の観点から、行政が関係主体との調整のもと、各事業主体との協議と情報共有、必要な資料の確認、影響評価の取り扱いのあり方を整理し、その運用を明確化することを求めます。
第一に、地盤挙動に関するモニタリング及び測量データの蓄積を、工事・開発主体に要請することを求めます。地盤挙動の進行性、影響範囲及び原因を客観的かつ適切に把握するうえで重要です。特に大規模建築物の建設に伴う杭基礎工事は、周辺地盤に影響を及ぼす可能性があります。
第二に、地盤挙動に関する測量データや調査結果について、関係主体間で適切に共有され、必要な協議が行われるよう、行政による要請を求めます。このため、地区計画を策定した区が、各主体による地盤挙動及び地下水位等に関する計測の状況、データの管理及び公開のあり方について整理し、関係主体間で適切に情報共有が行われるよう運用を整理することが必要です。
足立区は大部分が軟弱地盤に位置しています。このため、本陳情による運用整理は、他区域における土地利用やインフラ被害が発生した場合の行政判断の先例となり得ます。安全な土地利用基準の明確化は、都市の信頼性の向上及び中長期的な行政コストの低減に寄与する重要な施策であると考えます。
以上より、行政判断の透明性及び予見可能性並びに地域環境の安全性への配慮の観点から、地盤変状が発生した場合には、行政が工事主体に対し、中期的な地盤挙動の計測データの取得及び共有を要請し、地盤挙動の収束を確認した上で土地利用の判断を行う仕組みを整理することが必要であると考えます。また、こうした手順が整理された場合には、その内容を公開し、住民に対して説明が行われることを求めます。
【下記添付資料省略】
別紙1.「擁壁の変位と工事の状況」と題する東京コンサルタンツ株式会社作成資料(令和7年12月25日グランマークスツインフォート管理組合との協議にて国土交通省荒川下流河川事務所配布)
別紙2.「家屋(事中)調査の所見案(全体平面図)」と題する株式会社四門作成資料(令和7年12月25日グランマークスツインフォート管理組合との協議にて国土交通省荒川下流河川事務所配布)
別紙3.隅田川沿いの歩道(都所有)の沈下
別紙4.坪田邦治・中島啓・西垣誠「軟弱地盤における築堤盛土による周辺地盤沈下対策工の考察」『土木学会論文集F』第63巻第3号323-334頁2007年
別紙5.石原吉雄「軟弱地盤上の高規格堤防の盛土施工に伴う沈下量についての一考察」『リバーフロント研究所報告』第5号64-81頁1994年